【随想】傷付かずには生きられない世界で生きるということについて

【随想】傷付かずには生きられない世界で生きるということについて

僕は心が弱い。

子供の頃から、何か良くないことがあったり、悪意のある言葉を耳にしたりすると心が萎んで萎れて、動けなくなる。

大人になって随分強くなったとは思うけど、それでも傷付くし、悲しむし、時に生きようとする足が止まってしまう時もある。

まあ、程度の差はあれど、誰しもがそうなんだろうけれど。

この世界は楽園じゃない。色んな人がいて、色んなことがあって、一つの傷も付かないまま生きられる人なんてたぶんいない。

もちろん、この世界が絶望だけじゃないことも知っているし、楽しいことや嬉しいこと、人の繋がりの温かさや、世界の美しさも、もう僕は知っている。

でも。

傷付かずには生きられない世界で、生きていかなければいけない、ということ。

時折その事実に目眩がして、なんでそんな場所で苦しみながら存在しているんだろう、と考えてしまうことがある。

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そういう精神状態の処方箋は、「痛みも悲しみも糧にできる」という思想だと思う。

一見無責任なキレイゴトのように見えるけれど、傷付きながら生きなければならない運命の中での、切実な願いでもある。

傷付かなければいけないのは、自分だけじゃない。自分にとってとても大切な(時に、自分よりも、世界よりも)大切な人が、残酷に傷付けられる可能性をこの世界が持っているということは、自分が傷付くよりもよほどつらい。

そんな時に、心の傷は欠損や損失だけではない、と考えらえるのは、救いに繋がると思う。

傷は優しさに変えられるし、人の残酷さを知れば人の温かさに感謝できる。世界の醜い一面を知れば美しさに感動できる。

こういう、「マイナスをプラスにできる」という考えの中でとても好きな表現があって。

Mr.Childrenの「HERO」という曲の歌詞、以下の部分。

人生をフルコースで深く味わうための
幾つものスパイスが誰もに用意されていて
時には苦かったり 渋く思うこともあるだろう
そして最後のデザートを笑って食べる 君の側に僕は居たい

(ありがたいことに公式アカウントがYoutubeでMVを公開しているのでいつでも何度でも見れます)

この世界には、残念だけれど痛みも悲しみも絶望もある。出会いがあれば別れもある。

でもそれは全部、人生を深く味わうために用意されたスパイスなのだ。

この世界には、楽しいことも嬉しいことも希望もちゃんとある。別れがあれば出会いもある。

だから、キミは大丈夫。

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守りたい大切な人に向けたそんなメッセージを想うと、いつも涙が出そうになる。

傷付いても、まだ歩こうと思える。

僕も、最後のデザートを笑って食べるまで、生きていこうと思う。

『逢う日、花咲く。』で第25回電撃小説大賞を受賞し、デビュー。著書は他に『明けない夜のフラグメンツ』『世界の終わりとヒマワリとゼファー』『君を、死んでも忘れない』『この星で君と生きるための幾億の理由』『あの日見た流星、君と死ぬための願い』

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