お題:迷う人 言葉は、羽に似ている。 言葉は、鎖に似ている。 <手紙の誤配があったようです。申し訳ありませんが、気付かずに読んでしまいました> あなたがくれた全ての手紙を右手に持って、私は海を見下ろす崖に立った。闇の […]
【掌編】日常と、最後の手紙
お題:手紙 春の爽やかな朝日の差し込む明るい喫茶店には、似つかわしくない悲しげなジャズピアノが、誰からも忘れ去られたように流れていた。 結婚してからもう数年が経つが、こうして朝食を外でとるというのは、意外にも初めてのこ […]
【掌編】gray promenade
お題:無慈悲な人 灰色は、嫉妬の色らしい。 空は梅雨らしく陰鬱な雲を広げ、太陽の光を閉じ込めて仄暗く輝いている。今にも雨が降り出しそうだが、悲しみを避ける為の傘さえも、僕は持っていない。 二人でよく散歩をした遊歩道を […]
【掌編】デュアル・プリズム
お題:私を愛したスパイ 私が辻先輩に声をかけたのは、十名程の部員がざわめく部内でもいつも一人でいる彼が一番話しかけやすそうであり、また、少し親近感を覚えたからだった。 彼はいつも文芸部室の窓際の陽だまりにパイプ椅子を置 […]
【掌編】ポケットの中の相棒
お題:探偵 「くそっ、何でも屋と化してた俺には荷が重いって」 真冬の鋭い月が浮かぶ夜の町外れを、悪態を吐きながら自転車のペダルを漕ぐと、乱れた息が何本もの白い柱となって立ち昇った。 目的の工場が見えてきた辺りで太ももが […]
【掌編】銀の牢獄
お題:待つ人 彼女は奇跡だった。 黎明の光の中でそれは踊る様に、唄う様に、自らも光を放っているかの様に美しく舞っていた。 彼女は希望だった。 いつも見上げていた。 ずっと眺めていた。 焦がれていた。 ――あなたはいつも […]
【掌編】白百合渡る蒼穹に
お題:猫とアオゾラ 盗んだパンを抱え、汚れた灰色の石の街を裸足で駆け抜けた。身に纏うのは街よりも汚れたボロ一枚。背に浴びる怒号は風よりも早く遠ざかる。私の足は、富と贅肉を持つ大人には決して捕まらない。 暗い路地裏の塵 […]
【掌編】「 snow letter 」
お題:恋愛 引っ越しの準備の最中、懐かしい本から、はらりと一枚の栞が落ちた。 月が、綺麗ですね それは何の柄もないただの厚紙で、その言葉だけがそっと囁くように書かれている。印刷ではないから、ユキの手書きなのだろ […]
【掌編】Lovers End Worlds
お題:再会 人類が未知のウィルスにより死滅してから、もう五十年が経つ。 科学者であった夫が作った私の義体は、必要な熱量の摂取さえ怠らなければ問題なく稼働し続けていた。彼の最期の贈り物――今も胸部ドライブで回転を続ける […]
【掌編】Worlds End Lovers
お題:無口な人 釣竿とバケツを持って、私は家を出た。 立ち並ぶビルの廃墟は、それを覆う蔦や緑の葉を、今日も風に揺らしている。風に乱され視界を遮る邪魔な髪を耳にかけ、 緑の茂る廃墟の街を歩く。この長い髪が煩わしいと思う […]