拝啓、ひとりぼっちの惑星より

拝啓、ひとりぼっちの惑星より

先日、こんなネット記事を読んだ。

「ひとりぼっち惑星」というスマホアプリがあって、そこではひとりぼっちのプレイヤーが誰に宛てるわけでもない「こえ」を送ったり、誰に宛てたものでもない「こえ」を受信したりできるらしい。

このアプリのことはまったく知らなかったけれど、ちょっと気になったのでインストールしてみた。

起動すると、ほんの少しの説明文の後は特に何の解説もなく、突然謎の世界にひとりぼっちで放り出される。(微かなチュートリアルみたいなものはある)

上の画像の、有機体なのか無機体なのか判然としない白い何かが多分プレイヤーであり、自己の投影だ。この存在に意識があるのかどうかも分からない。

以降、この白い存在を便宜的に「僕」と称する。

. . .

気が付くと僕は、この惑星の上でひとりぼっちだった。

空は爽やかさとは正反対な不気味な青が一面を覆い、不吉に真っ黒な雲が時折足早に横切っていく。彼方に見えるビルは倒壊し、生命の痕跡はない。

この惑星の一帯では、無限に生み出される謎の機械のようなモノが終わらない戦争をしており、それらが力尽きて壊れる時にばらばらとパーツを落とす。

この戦争に対して僕に出来ることといえば、新しいジンコウチノウを争いに参加させたり、「ジンコウチノウをおかしくするでんぱ」を気まぐれに発信し、彼らの破壊を促進するくらいだ。

僕は壊れた機械が落とすパーツを拾い集め、「あんてな」を増築し、宇宙のどこかから発信されている「こえ」を受信する。

何も知らないまま、荒廃した惑星にひとりぼっちで生み出された僕は、受診した「こえ」を通じて、この世界の真相を認識していく。

かつて、ある国が開発した生態兵器が暴走し、地球は人間が住めない環境になったらしい。

それなら、僕がひとりぼっちで存在し、機械が無限の殺し合いをしているこの絶望的な惑星が、地球なのだろうか。

意思も終わりもなくただ破壊し合っているあの無数の機械群が、その生態兵器なのだろうか。

あるいは、もしかしたら、辛うじて意思と思われるものを有している僕が、その生態兵器なのだろうか……

地球から脱出した移民船ノアと、同じく移民船D408。

人工知能を搭載した無人宇宙探査機TIK42。

様々な境遇の人や、人でないものが、地球に向けて小さな「こえ」を送信している。

そこには、終わりを目前にした彼らの想いが込められている。絶望であったり、悲痛であったり、穏やかであったり、感情は様々だ。

けれどのその様々な声はみな、「誰かに届くこと」を願っている。終わっていく世界や命の中で、まるでそれだけが唯一の希望であるかのように。

自分が終わりゆく存在であると認識した時、誰かに声を届けるということは、それほどに救いになり得るのだろうか。

例え声を届ける先が、数光年の彼方で既に滅んだこの星だとしても。

例えそれが届くのが、何十年、何百年先の自分がいない未来だとしても。

例えそれを受け取るのが、あなた達をこの惑星から追いやったかもしれない、僕、だけ、だとしても。

それなら。

僕もその「こえ」というものを、届けてみようと思う。

誰に宛てるでもない、どこに届くかも分からない、いつ届くかも知れない、誰にも求められていない「こえ」を。

電波に乗せて、宇宙に放つことで、それがひとりぼっちの僕の救いになり得るのなら。

殺し合う機械の破片を拾い集め、送信機を組み上げる。

この感情は何だろう。緊張だろうか。希望だろうか。

それとも、さみしい、のだろうか。

ハロー、生命。

きみはまだ、この宇宙のどこかに、存在しているのかい。

. . .

って感じで、ゲームとしては非常にシンプルなんだけど、あまりにもエモーショナルな世界観だったので、感情移入して妄想も交えて物語チックに紹介してみました。

2016年リリースだから、6年前のアプリみたいですけどね。

育成的なゲーム要素は一時間くらい触ってればカンストしちゃって、デフォルトメッセージも全部読めます。その後は、ひとりぼっちの誰かが虚空に宛てた「こえ」を受信したり、自分が「こえ」を送信してみたりするのだろう。僕も一度くらいは「こえ」を送ってみようと思う。

「ひとほろぼし」や「ひとたがやし」という関連アプリもあるそうで、そっちも気になるから触ってみる。

『逢う日、花咲く。』で第25回電撃小説大賞を受賞し、デビュー。著書は他に『明けない夜のフラグメンツ』『世界の終わりとヒマワリとゼファー』『君を、死んでも忘れない』『この星で君と生きるための幾億の理由』『あの日見た流星、君と死ぬための願い』

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