お題:無口な人 釣竿とバケツを持って、私は家を出た。 立ち並ぶビルの廃墟は、それを覆う蔦や緑の葉を、今日も風に揺らしている。風に乱され視界を遮る邪魔な髪を耳にかけ、 緑の茂る廃墟の街を歩く。この長い髪が煩わしいと思う […]
【日記】モンステラの切り戻し、の話
在宅でテレワークをしてると、平日にはなかなか日記にするようなことがないですね。 とはいえ休日もこのコロナ禍では大したことも出来ず、「なるべく高頻度で日記を」と宣言したもののあまり書くことがないのです。 今日はくもりの天気 […]
【三題噺】イニシエのイヴ
ミス・ハダリーは、今日も美しい。 白く、陽の光を透かすような、その繊細な指先で。 ――ともすれば世界さえ、滅ぼしてしまいそうなほどに。 . 苔生す石畳。 無数の草花。 古い教会を再利用しただけのオンボロの建物。 […]
【掌編】CROSS SAVIOR
お題:神 穏やかな温もりを持った唇が、そっと離れた。彼が塞いでいた私の口元に、教会の静謐な空気が触れた。 たったこれだけのことで、あれだけ溢れていた涙も叫びも、呆気なく止まる。 全身が雷に打たれたように硬直し、やがて思 […]
【日記】社会人としての成長意欲が皆無、の話
昨日はまた疲れてたので日記サボりました。 仕事を終えた後にちょっと出て、涼しくなってきたので秋服を何着か買った、というくらい。 新しい服を買うっていいですよね。翌日がちょっと楽しみになるような。 そういえば昨日は立派なう […]
【掌編】前を向くライオン
お題:新人 黄金の鬣を靡かせて、太く逞しい前脚を岩にかけ、その獅子は唸る様な声で言う。 ――これから初めて獲物を追うお前に、狩りの心得を教える。 はい。お願いします。 ――まず我々は強くなどない。他の生命を奪わなくて […]
【三題噺】喪失と再生のメメント
想いは、呪いに似ている。 「先生、そっち歪んでますよ」「え、そうか?」 ゆるゆると気だるげに粉雪が降る。それに逆らうように、彼の吐く息が白く烟って灰色の空に立ち昇っていく。 「……先生、雪だるま下手ですね」「……それ […]
【日記】カッターで髪を切る、の話
昨日は爽やかな青空が広がっていたのに、今日はまた雨空。でもその肌寒さも、秋の到来を感じて嬉しい。(夕方くらいにまた晴れたけど) * 今日は普通に仕事の日だけど、髪が伸びて邪魔になってきていたので、途中で髪を切りまし […]
【掌編】君の温もり
お題:ラーメン 三分が経ちフタを開けようとすると、目に見えない温もりにその手を止められる。僕の手に触れる安らぎの感触の中に、妙な強い意思を感じる。 「いつも思うんだけど、気に入らないならもっと早くに止めてくれないかな。 […]
【掌編】さよならの風はクチナシの香り
お題:結婚 奏花は笑顔だった。それでいいんだと思う。 クチナシの花を配した純白のドレスに包まれ、皆から祝福されている姿を見ると、僕の胸に空いた穴が少しだけ塞がる様な気がした。 大きなガラス窓から六月の海が見える、白を […]