深い夜の致命的ノスタルジア

深い夜の致命的ノスタルジア

※Twitterからの転記です

子供の頃のことって結構忘れてるんだけど、たまにふと、愛されていたんだなと感じる瞬間を思い出すことがあって、それが致命的ノスタルジアになる。

朧げな記憶だけど、どこかのビルの中に小さな遊園地みたいなフロアがあって、百円で動く乗り物がいくつか置かれていた。

緑色の水の上を小さな船がゆっくりと回る乗り物に僕は乗っていて、近くにはおばあちゃんが立っていた。

幼稚園とか小学低学年くらいのかなり小さい頃だと思うけど、ビートルズのオブラディオブラダがBGMだったのを何故か覚えている。

他のシーンの記憶はまったくない。でもその船の時間だけ妙に覚えている。

僕は喜ぶでも笑うでもなく、ただ船に乗ってゆらゆらと回転していた。おばあちゃんの表情は思い出せない。

でもその、十数秒で終わってしまうような小さな乗り物に100円を入れて僕を乗せてくれたというちょっとしたことに、思い出す度になぜかいつも泣きたくなるような愛情を感じるんだ。

おばあちゃんは優しい人だった。

ビデオに残ってる、僕が初めて歩いた時の笑顔や声が、愛に溢れていた。覚えてないけど記録に残ってる。歴史に刻まれている。忘れたけど僕の人格の根幹の一部になってる。僕は愛されていた。

そのことを思うだけで涙が出てくる。ちょっと泣きながらこれを打ってる。

おばあちゃんは今、遠い故郷で施設に入ってる。もう何年も会ってない。色んなことを忘れてしまって、多分僕のことも分からない。

でも過去は消えなくて、愛してくれた事実は揺るがなくて、僕の血になって体の中を温かく流れている。

きっと愛情は遺伝する。愛は受け継がれる。

おばあちゃんに愛された僕は、僕の中にちゃんと残っている愛情を、僕の大切な人に伝えていこう。

って、こんな夜中に思ったよ。

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愛されていたという記憶って、ただそれだけで、生きる理由になっていく。

幼い頃におばあちゃんが愛してくれた僕なのだから、胸を張って、ちゃんと生きなきゃな、って気持ちになる。

『逢う日、花咲く。』で第25回電撃小説大賞を受賞し、デビュー。著書は他に『明けない夜のフラグメンツ』『世界の終わりとヒマワリとゼファー』『君を、死んでも忘れない』『この星で君と生きるための幾億の理由』『あの日見た流星、君と死ぬための願い』

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