今年の1月に発売した自著『拝啓、やがて星になる君へ』にて、本文中では明記していなかった隠し設定について書いてみようと思います。
読了された方を対象とした内容になるので、未読の方はこのページより先に本を買って読んでいただけると嬉しいです。
①星化症について
物語中では、「星化症」という架空の病を登場させています。詳細は以下。
英名はアストロニアシス(Astroniasis。星を意味するAstronと、病名の接尾語-iasisを繋げたもの)。
昔から地域に限らず稀に発生していた奇病。感染性はなく、治療法も見つかっていない。
人体の皮膚が徐々に石のように変化し、次第に体内も硬化していく。硬化した箇所は、夜になると仄かに光る。罹患者は発症から三ヶ月ほどで最終段階に入り、最後は夜空の下で流星のような光となって天に昇る。やがて光が止むと、光が指していた先、火星と木星の間の小惑星帯(アステロイドベルト)に新しい星が生成されることが分かっている。
星になった後の星化症患者の体は、1mほどの石の塊となって残される。これは星塚(ほしづか)と呼ばれていて、星になった者の墓碑のように扱われている。 星になった者は死んだのではなく、星として生き続けており、長い長い夢を見ていると考えられている。また、星化症患者は星になる最後の瞬間に願いが叶うという噂があるが、真偽を確かめる手段がないため噂の域を出ない。
……と、ここまでは本文中からも読み取れる内容。以降が隠しというか、著者の中では設定がある内容になります。
地球上の生物の元となったアミノ酸は、太古に地球に衝突した彗星によってもたらされた可能性があることを、彗星探査機「スターダスト」による彗星採取サンプルの分析から判明した(2006年頃)。(これは現実世界での実話です。以降が今作の設定)
全ての生物の遺伝子には故郷である宇宙に帰ろうとする帰巣本能的な因子が秘められており、それが強く現れたものが星化症として発症する。このため、正確には病気ではなく、宇宙時間規模の先祖返りである。作中の世界ではそこまで真相は解明されていないが、一部の仮説としては存在している(が、突拍子もないため学会では支持されていない)。
アステロイドベルトに浮かぶ無数の小さな星たちは、お互いの衝突や太陽風の影響等で軌道を外れ、稀に地球にまで飛来する。大半は大気圏内で燃え尽きるが、小さな隕石として地表に辿り着くことがある。こうして地球と宇宙との間で、生命が壮大に循環している。
――といった感じです。
(この、「地上に落ちてきた、かつてヒトだった隕石」を扱った物語のプロットもあったんですが、これは商業では出せないかもな…)
作中の世界では、「星化症」という名前が付けられた奇病、という扱いになっていますが、「病気ではない」というのが作者の裏設定です。
物語とはいえ、病でヒロインを死なせるというのをやりたくないんですよね。
だから、「病気で死ぬわけじゃないんだよ(悲劇じゃないんだよ)」というのは作中でも表したかったし、実際に夏美にも「死ぬんじゃないよ」とか、「遠い所に旅立つ」とか、そういうセリフを言わせていました。(夏美は勇輝たちよりも情報を持っているので)
とはいえ、地球上で生きている生命にとって、大切な人が「星になって宇宙に還る」なんてのは死別と変わらない永遠の別れに等しく、そういう意味で今作は、「時間も空間もとんでもなく遠い遠距離恋愛」という形になっています。
②他作品とのリンクについて(主人公が書いた小説)
青海野作品を読んでいただいている方は何となく分かってもらえているかな…と思うのですが、僕は独立した作品間の繋がりを出すのが大好きなんです。
(自作に限らず、小説や漫画や映画とかでも、そういう「他作品との繋がり」を発見するとたまらなく嬉しくなるんですよね。スターシステムっていうんでしょうか。伊坂幸太郎さんの小説とか。『君の名は』に『言の葉の庭』の先生が出てくるとか。『時をかける少女』に原作小説の主人公が魔女おばさんとして出てる、とかね)
今作も例に漏れずそれをやっているんですが、気付いていただけたでしょうか。
まず一つめとして、分かりやすく直接的なんですが、文芸部の冊子に載せるために勇輝が初めて書いた小説「星空に叫ぶラブソング」。これは今作の前月にメディアワークス文庫で出たアンソロジー、『君に贈る15ページ』に載せた短編と同じタイトルです。
作中で勇輝のモノローグとして物語概要を書いていますが、結末は敢えてぼかしており、気になる方はこちらを読んでいただけると幸いです。
(出版社違うのに勝手に繋がりを入れてすみません…大丈夫かな…)
(さらにアンソロジー短編の中でもスターシステムをやってるんですが、これは複雑になるのでここでは割愛します)
③他作品とのリンクについて(松陵ヶ丘)
で、もう一点。
これは気付きにくいかもしれませんが……作中に出てくる「松陵ヶ丘」という見晴らし台。文芸部が夏休みにペルセウス座流星群を観に行った場所ですね。
この松陵ヶ丘は、『明けない夜のフラグメンツ』という物語でとても重要な場所になっています。
フラグメンツの主人公「月待燈」の大切な場所として何度も登場しています。燈は「約束の丘」と呼んでいますが、正式名称は「松陵ヶ丘」です。
『拝啓、やがて星になる君へ』の舞台と、『明けない夜のフラグメンツ』の舞台は、同じ町ということですね。(実在の町ではなく、山間の田舎をイメージした架空の町です)
フラグメンツでの重要なイベントである「永訣祭」は、星になるの方では数年前に廃止されているので、時間軸は異なるのですが。
余談かつ作中でも触れてないのですが、勇輝は読書好きなので、「この町の出身作家である」ということを知らないまま、月待燈の小説も読んでいました。燈さんは小説家として他の本にも名前を少し出しているので、そちらもよろしければぜひ。そのうち、名前だけでなく、成長して大人になった燈さんも別の物語で出したいなと思っています(が実現できるかはまだ分かりません…)。
(以下は余談の余談)
「星空に叫ぶラブソング」が勇輝が書いたものだとしたら、そこにゲスト登場してる雪と桜も創作の中の人物で、じゃあ彼らが別の物語で読んでいた月待燈の小説はどうなってるんだよ、というツッコミがもしあれば、あなたは青海野マニアです(笑)。そこは、連載中の『Good-bye World』で平行世界を扱っていますが、そこと絡めてご想像にお任せします、としておきます。
長くなっちゃいましたが、『拝啓、やがて星になる君へ』の本文中では語れなかった裏設定は以上となります。(本当は細かいのもあるんですが、今書いてもしょうがないものなので割愛)
今後も、作品間の世界の繋がりを感じられるような物語を書き続けていきたいと思っていますので、青海野をよろしくお願いいたします。
近々新作の告知もできるかなと思ってます!