【日記】さよなら、ふるさと

【日記】さよなら、ふるさと

もう過ぎ去った日々なんですが、木・金・月にお休みを取って土日を繋げ、8月1日から5日までの5日間、故郷である新潟県長岡市に帰省していました。

川端康成の「雪国」の有名な冒頭で

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。

という一節がありますが、東京から新潟に向かう新幹線も、長いトンネルを通るんです。

車窓の外で暗い壁がずーっと続き、それを抜けると一気に景色が広がって、緑の山や広がる田んぼや青い空が目に飛び込んでくる。

この瞬間にいつも、「ああ、故郷に帰ってきたんだな」という甘苦しい感傷に浸ります。

生まれてから高校卒業まで、17年間、新潟で生きてきました。

この町で、楽しいことも嬉しいこともあったし、どうしようもないくらい大好きな人もいた。死にたいくらいつらいこともあったし、悲しいこともあったし、何年も抱える後悔もあった。

でもそこを去って、いつの間にか大人になって、必死で社会に馴染んで、大切なものも増えて、少しだけ世界を愛せるようになって、そうしてたまに、こうして帰ってくる。綺麗なものも、醜いものも、沢山の想い出が至る所に染み付いている、大嫌いで大好きな、この町に。

この瞬間を迎える度に、ふるさとっていつになっても特別なものなんだな、と思います。

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帰省初日は、久しぶりの実家でゆっくり休んで、夜には家族で宴をしました。

美味しいお酒を飲み過ぎて、夜は気を失うように眠って、真夜中に目が覚めて寝直せなくて、もうそれなら、と着替えて早朝散歩に出ました。

家の近くに長ーい距離の遊歩道があって、田んぼの真ん中を突っ切って延々と歩いて行けるんですよね。

早朝の涼しい空気と故郷の景色にワクワクニコニコしながら散歩して、太陽が昇るまでそこにいました。

午後には、地元の市立図書館まで散歩。小中高とよく通った図書館で、そこに至る道や、図書館の裏にある公園や、館内の空気にも想い出がいっぱい。

でも、でも! あまりにも陽射しが強すぎて、熱すぎて(もう「暑い」じゃなくて「熱い」)、まっっっっったく楽しめない! 感傷に浸れない! なんとかしてくれ夏!!

8月2日であるこの日は、長岡花火の一日目。

車で送ってもらって、会場からは遠いけれど高い山の上で花火を観ました。

山の上だからか涼しくて、空が広くて夕陽が綺麗でした。

遠いせいもあるけど、画面をちゃんと見てなかったんで、写真はまともなものが撮れてなかったよ…

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帰省3日目は、花火打ち上げ会場の信濃川近くに席を取ってくれていたので、そこで長岡花火2日目を観覧。

会場に向かう途中からもう人がすごい数で、長岡花火が有名になったんだな、と感じます。(学生の頃は有料の席とか買わなくても、間近にシート敷いて余裕で見れていた覚えがある)

間近で見る花火はすごい迫力で、音の衝撃とか、音楽や歌との共演とか、これでしか味わえない感動だよな、と改めて思います。

Youtubeに動画があったので、興味ある方は観てみてください。1:17:37くらいのフェニックス花火だけでも!(フェニックスだけで二千万円くらいかかってるとか聞いたよ⁉)

一緒に見ていた家族は、混まないように早めに帰ったけど、自分一人だけ残って最後まで堪能して、一時間くらい歩いて家まで帰りました。夜のピクニックみたいで、その時間もとても楽しいんだ。

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帰省4日目は、丘陵公園という広ーーい公園に行って遊びました。

水遊びできる浅いプールもあって、夏に遊ぶにはいいんだけど、何しろ酷暑の夏、暑すぎる…

夏日、真夏日、猛暑日、という言葉があるけれど、そろそろ人類は次の段階の言葉を制定しないといけないんじゃなかろうか。「激暑」とか、「致死暑」とか。

ずっと外にいるのは命の危険を感じたので、屋内の涼しい部屋で休憩して帰りましたさ。

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そして8月5日、帰省最終日。

昼頃に新幹線に乗って、故郷を発つ。

大学生の頃とか、社会人になってすぐの頃とかは、こうして故郷を離れる時は、言いようのない寂しさや名残惜しさで胸が痛んだ。

けれど、今はもう、「たまに帰る場所」という印象の方が強くて、定住している町の方が過ごしやすいし快適だ。

去年の冬におばあちゃんが亡くなった時も思ったけれど、「あまり寂しいと感じないこと」が寂しく感じる。特別なものが、特別じゃなくなっていくような気がして。

大人になっていくにつれ、色々なことを知って、傷付かない方法を学んで、心を守って、穏やかに生きることを無意識に選んできた。

傷も執着も愛情も思い出も、大切に思う対象も、時と共に移り変わっていく。

でもまたいくつもの日々を経て、新幹線に乗って長いトンネルを抜ける度、甘くて痛い感傷は何度も蘇るのだろうし、特別で大切な場所であることは変わらないんだろうな、とも思う。

この気持ちは、変わってほしくないな、と思う。

さよなら、ふるさと。

またいつか、この場所に帰ってくるまで。

『逢う日、花咲く。』で第25回電撃小説大賞を受賞し、デビュー。著書は他に『明けない夜のフラグメンツ』『世界の終わりとヒマワリとゼファー』『君を、死んでも忘れない』『この星で君と生きるための幾億の理由』『あの日見た流星、君と死ぬための願い』

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